24日の朝に、仕事へ出る前に入ったトイレに入っているとき、電話が鳴った。親父の携帯からだった。留守電メッセージが作動した。
「ばあちゃん(の様態)が変った、すぐ連絡くれ!」

すぐにコールバックしたが、話中で連絡がつかない。
すぐにもう一度。今度はコール音のみ。
やきもきしながら待ち、5分後に電話して、繋がった。お袋が出た。

「ばあちゃんね、7時40分(ついさっき)にね、亡くなった。」

その連絡を聞いた俺の第一声は
「そうか・・・・」だった。
 
 
 
 
 

俺はずっと前から、ばあちゃんっ子だった。親が共稼ぎだったので、小さい頃学校から帰ってくるといつもばあちゃんがいて、いっつも世話を焼いてもらっていた。
でも、だいぶ前から体を悪くしていた。
3〜4年前から風邪をこじらせることが多く、よく病院の世話になっていた。
自分から体を動かすことが上手く出来ないようになり、頭もボケ始めていた。
俺の名前を親父の名前で呼ぶときも沢山あった。
でも、飯は沢山食ってたし、見舞いに行くと本当に嬉しそうで、ニコニコ笑ってた。

2年前、ばあちゃんは転んで大たい骨を骨折して、入院した。
骨折した個所と年齢が厳しかったので、接合手術をして、細い足に不釣合いなボルトを埋め込まなければならなかった。
だが、そのときにかけた全身麻酔が完全に抜けきれずに脳に残ってしまい(高齢者の手術時には良くあることらしい)、また体が完全に動かせなくなる時期が非常に長く続いたため、ばあちゃんの痴呆が急速に進行していった。

病院を退院しても、満足に動くことが出来ず養護施設で世話を受ける身となっていたばあちゃん。
俺は実家を遠く離れて仕事に出てる身なので、盆、正月、GWくらいしか実家に戻ることができない。
そのかわり戻ったときは必ずばあちゃんを見舞いに行くようにしていた。
来るたびにばあちゃんの様態は怪しくなっていった。呂律が上手く回らずに言葉も良く伝わらない。会いに行っても寝ていることが多くなり、しまいにはこちらの呼びかけにも応じず、目ですらこちらを追うことが出来なくなっていた。
でも、俺がばあちゃんの手を握ったとき、ばあちゃんはしっかりした力で俺の手を握り返してきて、なかなか離さなかった。

去年の暮れ、ばあちゃんを養護施設から一時的に引き取って、家で正月を迎えさせてやろうとした。
話もとんとん拍子で進み、いざ迎えに行く当日、ばあちゃんの風邪がぶり返して微熱が出た状態となり、そのまま施設で看護を続けなければいけない状態となった。
「ばあちゃん、ごめんな。熱が出てるから、うちに連れて行けなくなっちまった」
「ああ・・・そうか・・・・」
いつものとおり呂律が回らない状態でばあちゃんは寂しそうにつぶやいた。

その後、看護士の人から
「時々家族の方たちを集めて座談会を開くんです。その時、それほど重くない方は、お正月のときくらいはできるだけ家族の方たちと水入らずで過ごした方がよいので、引き取ってもらうようにお願いしてるんですけどね。殆どの人がそのままほったらかしなんです」
という話を聞いて、やり場の無い怒りを感じた。
俺は連れて帰りたくても帰れないのに・・・・!!

ばあちゃんの様態は今年に入っても回復することが無く、風邪はやがて肺炎となり、片方の肺が真っ白で全く機能しない状態となった。
夏に見舞いに行ったときは、固形物を租借することができなくなり、チューブで直接流動食を胃へ流し込んでいた。あんなに力強かった腕もめっきり細くなっていた。自力呼吸も難しくなり、口へ酸素マスクを当てて呼吸の補助を行わなくてはならない状態になっていた。
正直、元気な頃のばあちゃんの姿と対比したら目を背けたくなる姿だった。
でも、ばあちゃんは生きてる。
それだけで満足だった。

そんなこんながあり、「いつかは・・・・」という覚悟は自分の中で出来ていたはずだった。
訃報の連絡も、冷静に受け止めたつもりだった。すぐに仕事場へ休みの電話を入れ、最低限の準備をして実家へ向かった。

実家へついたとき、既にばあちゃんは家に着いていた。周りでは通夜の準備を親が慌しく進めていた。
居間の仏壇の前に、金色の刺繍が入った布団に寝かせられ、顔に布をかぶせられたばあちゃん。傍らに座り、布をめくってみた。
びっくりするくらい安らかな顔だった。鼻と頬には詰め物がされ、化粧を施され、唇には紅がさしてあった。
ばあちゃんの手を握ってみた。ぞっとするくらい、冷たかった。もう、俺を手を握り返してはくれなかった。

そのとき、今までのばあちゃんの思い出が爆発するように頭に広がってきた。
ガキの頃一緒に風呂に入って、体を丁寧に拭いてくれたばあちゃん。
近所のいじめっ子に苛められて泣いていたとき、いじめっ子を怒鳴って撃退してくれたばあちゃん。
夏休み、暇さえあれば、スイカを切ったりリンゴをむいたりしてくれたばあちゃん。
始めて稼いだ給料で買ってきたお土産をおいしそうに頬張っていたばあちゃん。
俺が実家に帰ってくると嬉しそうに迎えてくれたばあちゃん。
また仕事場に戻るとき、寂しさを不器用に隠しながら「元気でな」って言ってくれたばあちゃん。

「ばあちゃん・・・!!」

こらえきれず、俺は泣いた。
もうばあちゃんは動かない。リンゴもむいてくれないし、笑ってもくれない。
覚悟はしていたけど、そんなもの何の意味ももたなかった。
ばあちゃんはもういない。この現実がこれほど辛いとは思わなかった。

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