通夜も終り、納棺が始まった。ばあちゃんが生前に使っていたものを引っ張り出すことにした。施設生活をはじめてから物置同然になってしまっていたばあちゃんの部屋の引出しを開け、いろんなものを引っ張り出した。家で本を読んでいるときにいつも着ていたカーディガン、相当前に着ただけだったけど、抜群に似合っていた着物。ばあちゃんが終り際に一生懸命勉強して、真っ黒になるくらい手垢がついた聖書。
ばあちゃんの傍らに載せてやった。ライトブルーの着物を着たばあちゃんは最高に綺麗だった。

そのばあちゃんの上に、俺と親父で棺おけの蓋をかぶせた。

かぶせた後、俺は洗面所に駆け込んで、泣いた。ばあちゃんが綺麗過ぎて、そのばあちゃんとの別れが余りにも辛すぎて、こらえきれなかった。周りには親戚連中もいたから、長男である俺がべそべそ泣いている姿は見せたくなかった。

納棺も終り、霊柩車でばあちゃんを火葬場へ運んでいった。電動式の運搬装置にばあちゃんの棺おけが載せられ、火葬室の入り口まで来た。
「最後の、お別れをしてください」
火葬場職員の言葉が本当に重く響いた。
棺桶の蓋を開け、ばあちゃんの顔を見た。手を入れ、ばあちゃんの髪をなで、顔をなでてやった。冷たかったけど、これが本当に最後。ばあちゃんが生きていた88年間、そしてばあちゃんとともに生きた29年間を、右手で噛締めた。一生、この感触は忘れないようにしようと誓った。

全員のお別れが終り、いよいよ棺桶が火葬室へ入っていく。最近の火葬場はハイテクになっており、扉の開閉から何から、全て全自動で動く。
ばあちゃんが入った火葬室の扉が、無機質な音とともにゆっくり閉じられていく。他の皆は手をじっと合わせていたが、俺はだんだん閉まっていく扉の向こうのばあちゃんの棺桶をじっと見つめていた。ばあちゃんとの本当の別れのとき。それを最後まで見届けたかった。

そして、扉は完全に閉じられた。
ばあちゃんが死んでから3回目、俺はまた、泣いた。

2時間後、集骨が始まった。
ばあちゃんの姿は、真っ白な骨片になり果てていた。骨太で、がりがりに痩せても骨だけは頑丈に出来ていたばあちゃんの骨っぽく、しっかりした骨ばかりだった。頭蓋骨に当たる部分に、着物の色素が移ったのだろうか、薄っすらとライトブルーの色がついていた。
骨を一つずつ箸で拾い、遺骨箱に収めていく。そして、大たい骨に当たる部分から、あの骨折の接合手術に使ったときのボルトが出てきた。
職員が我々に相談してきた。人によっては、ボルトのような異質のものを遺骨と一緒に収めるのを嫌う場合があるので、ボルトを遺骨と一緒に収めるか否かは家族で判断してくれ、とのこと。
親父は「お前が決めろ」と言ってきた。
俺は即答で「入れてやろう」と答えた。
このボルトも、ばあちゃんだ。赤茶けた鉄の塊だが、これもばあちゃんが88年間という人生を生き抜いてきた証。これが無かったら、あっちで歩けない。

告別式を済ませ、家に、四角い箱になったばあちゃんを持って帰ってきた。
遺影の前にばあちゃんを置き、線香に火をつけて、そっと手をあわせた。
ばあちゃんの遺影は、腰も曲がっていない頃に友達と一緒に取った、穏やかな笑顔のもの。
これで終わったはずなのに・・・・。
終わったはずなのに、遺影を見ていると、今では物置になったあの部屋からばあちゃんがいつもの笑顔でまた出てきそうな気になってしまう。

暫く、恐らく俺が老いて死ぬまで、この錯覚は終わることは無いだろう。
 
 
 
 
 
 
久しぶりの更新なのに、こんな辛気臭いことを書いてしまって、本当に申し訳ありません。
でも、読んで欲しかったんです。
この世で一番大切なもの。それはやはり、家族。
家族を失うということは、例えようの無いくらい辛いもの。
貴方にまだご存命の家族の方がいるなら、一度でいい。もう一度、家族へ真正面に向き合って、今、家族の皆が生きていることの幸せを改めて実感して欲しいのです。

以上、爆弾でした。

コメント

最新の日記 一覧

<<  2025年5月  >>
27282930123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

最新のコメント

この日記について

日記内を検索